クイズ: 源氏の君の最後の恋!

『黒の過程』がとても面白かったので、ユルスナールの別の作品も読んでみる。短編集『流れる水のように』の中の「姉アンナ・・・」の背景はイタリアのマラリアで、マラリアの熱病の雰囲気が的確にストーリーに写されていて面白かったが、たまには医学史を離れた話題を別の作品から。 もしかしたらとても有名な作品で、クイズにするような話題ではないのかもしれないけれども。

 ユルスナールの短編集『東方奇譚』に「源氏の君の最後の恋」という作品がある。『源氏物語』の原作にない「雲隠」の巻に書かれる源氏の最期をユルスナールが想像して創作した作品である。

 年老いた源氏が都を離れて草深い鄙に隠棲して、源氏は老い盲しいて行く。 かつての華やかな官能に彩られた生活の記憶は、現在の盲目と対照されたときに源氏を苦しめる。 都の友人やかつての恋人からの便りも間遠になっていく中、最後に彼のもとにやってくる女性がいる。あるときは百姓娘に身をやつし、あるときは国司の人妻になりすまして、正体を隠し続けながら、老いた源氏の身の回りの世話などをして傍で過ごす。いくら老いているとはいえ、そこは源氏だから、女性が「彼の傍らで過ごす」と、何が起きるかは言わなくてもいいだろう(笑)。それにもかかわらず、盲いた源氏には彼女の正体は分からない。国司の人妻などを愛していると思いこんでいる。彼女の献身と愛情は、源氏が死の間際にかつての恋人たちを一人ひとり愛おしく振り返るときに、彼女には一言も言及されないという残酷な形で報いられる。彼女が身をやつした百姓娘や、いまの仮面である国司の妻ですら振り返られたというのに。

 さて、この女性というのは源氏が愛した女性たちの誰でしょうか? これは皆さんがこういう目に会わせたい女性の名を上げてください、という質問になるかもしれないし、源氏の最期にこの女をたち合わせて源氏を苦しめたい女性を上げてください、という質問になるかもしれません。 

 この作品は白水社から出ている文庫『東方奇譚』で読むことができます。