タンゴと結核


ラテンアメリカの医学史の論文集に目を通す。Armus, Diego, ed., Disease in the History of Modern Latin America: From Malaria to AIDS (Durham, NC.: Duke University Press, 2003)

 何人かの先生たちと一緒に「近代日本の医学と病気」というような感じの論文集を編もうかということになっている。構成のヒントを求めて「ラテンアメリカの新しい医学史」という論文集を手に取ったが、大変参考になった。論文集の構成だけでなく、個々の論文自体の書き方についても。

 優生学研究で有名なナンシー・ステパンのアマゾンのゴム園の労働者のマラリアについての論文や、なんと読むのが分からないがNouzeillesという研究者のヨーロッパ人種を繁殖させることを期待されたアルゼンチンの女性のヒステリーの論文も良かった。どちらもヨーロッパや英語圏の研究成果を踏まえての比較の視点がある。面白かったのが、アルゼンチンのタンゴに現れる結核女性の表象を追った、これもなんと読むのか分からない Armus という研究者の論文である。都市周縁の幸福とそこにいる素朴だけれども誠実な恋人を捨てて街に出てきたが、都市の享楽に溺れて堕落し売春から結核へと転落していく女性たちを切なく歌った一群のタンゴ曲があるという。

 画像は同書より。同時代のタンゴの楽譜。