ナイチンゲール『看護覚書』

 必要があってナイチンゲール『看護覚書』を読みなおす。文献はNightingale, Florence, Notes on Nursing: What it is, and what it is not, with a foreward by Virginia M. Dunbar (New York: Dover Publications, 1969).

 門外漢にとってナイチンゲールほど不可解で魅力的な人間はいない。クリミアの天使から寝たきりセレブへ、という人生も不可解だし、彼女の代表的な著作とされているNotes on Nursing も、何をしたいテキストなのかよく分からない。読んだことがある人は知っていると思うが、一番素直な読み方は、39歳のオールドミスが小姑根性を炸裂させて、病院や家庭で病人をケアしている女性に口うるさい注意を与えている本である。窓の開け閉めの仕方、看護婦の会話の禁止だとか、採光の具体的なアドヴァイスなど、具体的な状況についてのコメントが雑然と並んでいる。「窓は開けて、でも部屋は暖かく保つこと。窓を閉めて暖房費と手間を惜しむなんていう横着をしてはいけません」「そんな素材のお洋服でお仕事をすると、衣擦れの音が大きくて、患者さんが苛立つじゃないですか?」・・・小姑そのものである。患者がシーツにもぐって寝ると自分の吐いた息で<るいれき>にかかるから止めさせろとか言っているのを聞くと、大きなお世話だという気までしてくる(笑)。こういった小姑的な繰言に較べると、患者への献身だとか、看護の創始者から我々が期待する崇高な理念はあまり語られていない。でも、実は、そこがポイントなのだろうな、と想像している。看護史の皆さん、全然違っていますか?