19世紀ロンドンの種痘

 19世紀の天然痘と種痘についての論文を続けて読む。文献は、Mooney, Graham, “A Tissue of the Most Flagrant Anomalies: Smallpox Vaccination and the Centralization of Sanitary Administration in Nineteenth-Century London”, Medical History, 41(1997), 261-290.

 この論文で初めて知ったのだけれども、19世紀のイギリスにおいて、ロンドンの天然痘の死亡率は全国平均よりもずっと高かった。特に1876年からの5年間を見ると、全国の天然痘の死亡の80%以上がロンドンだけで占められているという。人口比や年齢構成、移民などのファクターを差し引いても、これは異常に高いのだろう。その理由は、ロンドンでは種痘率と種痘の成功率(善感率という)が低かったことによる。そして、種痘率・善感率が低いのは、昨日も触れたイギリスに顕著な種痘への反対というよりむしろ、ロンドンという巨大都市において、種痘を効率よく確実に行えるような行政が整備されていなかったことによるというのがムーニーの議論である。