マンゾーニのペスト


マンゾーニの『いいなづけ』を読む。文献はアレッサンドロ・マンゾーニ『いいなづけ』平川祐弘訳(東京:河出書房新社、1991)

1629-31年の北イタリアで、三十年戦争の傭兵たちが持ち込んだペストが大流行する。被害はミラノやマントゥア、ヴェニスといった都市や農村部に及び、Wikipedia によると当時のミラノの人口13万人のうち6万人が倒れ、北イタリア合計で26万人が死んだという。このうちミラノの流行のありさまは、1822年に書かれたマンゾーニの歴史小説『いいなづけ』で詳細に描写されている。衛生局や医者の後手後手にまわる対応、ペストにかかって腹心の部下に裏切られる悪党、ペストを広める毒物をまく「ペスト塗り」にまつわる流言飛語、死体運搬人の荷車に飛び乗って窮地を脱する主人公の冒険、そしてミラノの巨大な隔離病院(ラザレット)での「いいなづけ」のルチアとの劇的な再会・・・物語の部分にもペストについての史実が縦横に織り込まれているが、物語と切り離されたほぼ純粋な歴史といってよい、一次資料からミラノのペスト流行を再構成した章も二つある。この小説がイタリア文学の中で占める地位を考えると、イタリア人が最も親しんでいるペストの記述ではないだろうか。

 訳者による解説は長いわりにあまり役に立たない。同書についての正確な情報を伝えるというより、島崎藤村と比較したりした雑然とした随想。

画像はフィレンツェの 自然史博物館 Specola のペスト流行時の様子を表した蝋人形館