老いは病気か


 初期近代の老年医学についての短いけれども含蓄に富む論文を読む。文献はSchaefer, Daneil, “Medical Representations of Old Age in the Renaissance: the Influence of Non-Medical Texts”, in Erin Campbell ed., Growing Old in Early Modern Europe: Cultural Representations, (Aldershot: Ashgate, 2006), 11-20.
 借り出した本の中で見つけた論文。老年学の歴史を辿って、医学テキストから該当する記述を拾うという古い方法だが、同時代のヒューマニストたちと医学との交流に注目しているので、とても面白い洞察が随所にある。例えばガレノスをはじめ、古典古代と近世の医者たちは老年そのものを病気だとみなすことを拒んでいたが、ヒューマニストたちには老年は病気であるというのは常識だった。古代のテレンシウスは「老年はそれ自体で病気である」と言い、エラスムスは自分の状態をさして「この醜い老年は、恐ろしい病気であり、どのような医薬によっても止めることも治すこともできない」と書いているという。エラスムスの友人の医者は、老年は病気ではないと言っていたのに。老年を病気であると最初に言ったのは―それは比ゆ的な意味だっただろうが―文学者たちであり、医者はそういう特徴づけにはむしろ慎重だったというのは、もしかしたら重要な事実かもしれない。 

画像は先日のワークショップで小池寿子先生に教えていただいたデューラーの絵画「貪欲」。