ステップフォードの妻たち

授業の準備で『ステップフォードの妻たち』を読む。文献はアイラ・レヴィンステップフォードの妻たち』(東京:早川書房、2003)。ニコル・キッドマン主演で映画にもなった。以下は小説についての「ネタバレ」があります。

 郊外の町ステップフォードにエバハード一家が引越してくる。夫婦と子供二人。妻のジョアンナ(以下J) はカメラマンの仕事に興味を持ち、夫は妻の社会参加に理解がある。町は典型的な豊かな中産階級の郊外だが、その様子がおかしい。男たちは夜は女人禁制の「男性クラブ」で集まって夜を過ごしている。妻たちの誰もが完璧に美しく、笑顔を絶やさずに紋切り型の会話を交わし、嬉々として家事をしている。Jと、彼女から少し前に引っ越してきた二人の妻は状況を打開して女性解放を画策するが、全く手ごたえがない。ステップフォードの妻たちは、夫の留守を守って床にワックスをかけ、夫のために美しく着飾ることで完全に幸福なのだ。二人の友人が次々と「ステップフォード化」していくのを見たJの心に疑惑が湧いてくる。街の新聞を調べたJは、この街の秘密を掴む(あるいはそう思い込む)。男たちは妻をロボットに改造しているのだ。様子が変わり始めた夫を信じられなくなったJは、家を逃げ出すがすぐに男たちにつかまり、元友人がナイフを構えて婉然と微笑む部屋に連れて行かれる。そして一ヵ月後、Jも完全にステップフォード化された場面を描いて小説は終わっている。

 小説が出版された当時、巨大なうねりになっていた女性解放をコメディタッチで扱った作品である。シンプルなつくりだけれども、使われている道具立てはなかなか面白い。一つは人格改造の問題である。ケミカルな方法、洗脳、そして外科的な方法が示唆されている。詳しいことは調べてみないとわからないが、精神変容物質(LSDや向精神薬)、ロボトミーや、軍事的な捕虜の洗脳など、当時の医療技術が背景にあることは間違いない。ついでにいうと、ロボトミーは別にして、「人格改造講座」や「アロマテラピーによるリラックス」など、装いを換えたものが、現代でも消費者が選択できる賞品として売られているのも面白い。そのほかに、ロボットと家事の問題や、フェミニズムのパロディなど、学部1・2年生が誰でも楽しく読めて、実は深い問題を扱っている。

 キッドマンは、トム・クルーズの奥さんだったころは、それこそロボティックで個性がない美人だと思っていたけど、いつの間にか大女優になっている。「逆ステップフォード化」されたのだろうか?(笑)