蒼き狼

今日も少し無駄話を - 最近、無駄話が多い(笑) 

 出張の飛行機の中で『蒼き狼』を読む。特に好きな作家というわけではないけれども、井上靖を最近よく読む。端正な文体で坦々と語られるストーリーがほっとする。一つの作品で一回か二回狂おしいような感情の爆発があるが、それ以外は、登場人物たちは激しい情念を内に秘めて生きている。

 小説自体は、チンギス汗が生まれてから没するまでの事績を描いたもの。大きな構造は編年体風になっているが、具体的なストーリーはテムジン時代以来の人間関係が中心になっている。特に、母、兄弟、妻、愛妾、子供たちなどの家族を失う時期には、チンギス汗は父の幻影と愛妾への愛情に突き動かされるように、侵略と殺戮を重ねて大帝国を出現させていく。この仕掛けのいくつかの箇所は読み応えがある。家族との人間関係を強調しすぎて、やりすぎかもと感じた部分もあった。 

 あ、それから万里の長城を越えて中国の領内に侵略していく場面は、そのままCGが特殊効果入りの映画になるような、視覚に訴える書き方をしている。この作品は、私は観ていないけれども、『蒼き狼』というタイトルで映画化されているらしい。(Yahoo!Blog で広告していましたね。)あの無愛想なチンギス汗は、映画用にかなり色をつけて演じられるのだろうけれども、あそこの場面はそのままでいい。

 ・・・・と思ったのですが、ちょっと調べてみたら、映画のほうはタイトルが同じだけで、原作は森村誠一とのことでした。