沢尻エリカ



今日は無駄話を。芸能人の記事を書くのは、たぶんこれが最初で最後だと思う。

 私は週刊誌や雑誌の車内吊り広告を熱心に読む。そうすると、よく見出しになっているタレントや有名人の名前が、まず文字列として記憶に残る。この状態を、誰それを「知っている」と表現することにしている。そのうち、その文字列と、タレントの姿形(すがたかたち)が一致するようになる。この状態を「誰それのファンである」、あるいは「誰それが好きだ」と表現している。名前と顔が一致しただけで「ファンである」「好きだ」と表現することに違和感を持つ人もいるかもしれないが、私が「ファンになる」と、電車の中でポスターや雑誌の表紙の写真を見て、その人物の名前を思い浮かべ、近くに寄ってしげしげと眺め、小さい字で印刷してある名前の文字列を確認して、やっぱりこの人だったと嬉しがる。これはファンの行動そのものだといってよい。

 そう考えると、「知っているけれどもファンではない」タレント、普通に言うと「名前しか知らない」タレントというのがとても多い。福山雅治も反町康治中川翔子サトエリもこのカテゴリーに入る。ヨン様と米倉涼子はファンだけれども、ビョン様と竹内結子は知っているだけだ。竹内結子は、文字列は完璧にマスターしたが、顔が分らないだけではなく、実は読み方にも少し不安を残している。「ゆうこ」であって、「ゆいこ」ではないし、ましてや「けつこ」ではないと思っているけれども、それで正しいかしら?

 この「知っているけれどもファンではない」有名人の中で、最近すごく気になっているのが、おそらく皆さんの多くが知っている、沢尻エリカさんである。皆さんも沢尻さんを知っているだろうけれども、私だって、沢尻さんをとても良く知っている(笑)。特に最近は、映画の発表会でのふてぶてしい態度が批判されて、彼女についての記事がYahoo! トピックスを連日にぎわせているので、「沢尻エリカ」という文字列を見る機会がとても多い。さらに、彼女について私がマスターしたのは、文字列と通り一遍の情報だけではない。彼女がエリカ様と呼ばれていることも知っているし、Yahooの「日本タレント名鑑」に書いてあったから、「ヤングジャンプ制服コレクション」で 準グランプリを受賞したことも知っている。それ以外にも色々知っているが、知識をひけらかして沢尻さんとの親しさを誇示していると取られるのは本意でないので、いちいち列挙しない。要するに、普通の日本人が沢尻エリカさんについて知らなければならないことは、ほとんど知っているという自負がある、ということを言いたいのだ。

 しかし、沢尻エリカさんの名前と顔がどうしても一致しない。先に言及した「Yahooの日本タレント名鑑」の写真は、Yahoo!トピックスからリンクを飛んでいって何十回も確認したから、これは沢尻さんだとわかる。でも、この写真の人物と、記事になっている映画の発表会の写真の沢尻さんとが、同じ人物の写真だと認識できない。沢尻さんのサイトに行って(公式サイトは二つあることも知っている)、沢山ある写真のどれを見ても、たびたび言及する「Yahooの日本タレント名鑑」の写真と同じ人物の写真だとは認識できないし、もっと言えば、彼女のサイトの写真が相互に同じだとも認識できない。そこに誰か別の女性の写真が入っていても、それが、例えばライス国務長官や樋口一葉フローレンス・ナイチンゲール(1820-1910) などの、沢尻さんと非常にかけ離れた女性の写真でなければ、私には全く分らないだろう。

 例えば、先日元横綱との離婚が報じられていた花田美恵子さんの写真と、竹内結子さんの写真と、沢尻さんの写真が三枚並んでいて、その中から沢尻さんを選びなさいというクイズが出たら、何度も言及している「Yahooの日本タレント名鑑」の写真でないかぎり、私が正解できる確率は、ほぼ1/3だろう。そのクイズの沢尻さんの写真が、金属バットとビール瓶で力士に暴行しているショットだったら、私は、相撲に関連する女性ということで、その写真の人物は花田美恵子さんだと、なんのためらいもなく結論するだろう。花を一杯持っていればフローラ、朝の光が射していればアウローラ、車輪があればフォルトゥーナ、キリストが「私に触れるな」という身振りをしていたらマグダラのマリア。同じように、金属バットとビール瓶を持っていれば、この三人の中では相撲に最も関係が深い花田美恵子さん。この、イコノロジーの正攻法に基づいた推理の流れを否定するに足るだけの、沢尻エリカさんの容姿そのものについての決め手となる情報を、私は何一つ持っていない。つまり、彼女の「ファンではない」のだ。

 沢尻さんのファンになることに失敗している理由は、いくつか見当がついているが、文字列を認識する初期段階でつまづいたことが大きい。「桜沢エリカ」という文字列の名前を持つ漫画家を知っていて、しばらくの間、その文字列と「沢尻エリカ」という文字列を混同して、「沢尻エリカ」は女性の漫画家であると思っていた。「沢尻エリカ」は映画に出たりするということを薄々と察知してからも、マルチタレントで美人の漫画家だと思っていた。そのため、沢尻さんは漫画家ではないということを知ったときに、だまされたような気がして、しばらくの間、漠然とした敵意すら抱いていた。私は、沢尻さんとの出会いの出発点でつまづいたのである。

 これが、ジェーン・オースチンの『高慢と偏見』のようなハッピーエンドになって、めでたく沢尻さんのファンになれるといいと念じていたけれども、先日、彼女は一年間謹慎するのではないかという記事を見かけて、とても悲しんでいる。私がこんなに色々なことを知っている沢尻エリカさんが、名前と顔が一致しないまま、私の世界から消えていくのだろうか。

 画像は、本文中でくどいほど言及した「Yahooの日本タレント名鑑」の沢尻エリカさんの写真と、近代看護の創始者、フローレンス・ナイチンゲ-ル。 なお、「Yahooの日本タレント名鑑」で読み方が確認できるのを知って、喜んで竹内結子さんの名前の読み方を確認しました。 竹内さんはですね・・・やっぱり、お目にかかるのは初めてです(笑) 

 追記 第三パラグラフで「反町康治」と書いたのは「反町隆史」の間違いでした。前者は元サッカー選手で、現在U-22の監督。 反町隆史さんは、文字列もまだ完全にはマスターしていないということです(涙)