文章読本

 必要があって、文章読本ものを何冊か読む。谷崎潤一郎の『文章読本』と三島由紀夫の『文章読本』、それから中村明の『悪文-裏返し文章読本』。

 このブログの読者は先刻承知のことだと思うけれども、私は文章が下手だ。何度も読まないと構文が分らない悪文の典型である。構文が破綻している文章が、一つの記事に複数あるのも珍しくない。

 英語の散文のことを考えてみると、日本語が下手な理由は、二つほど見当がついている。一つは国語辞典をほとんど引かないこと。もう一つが、いい文章読本に出会い、そこに書いてあることを意識しながら文章を書くということをしていないからである。これまでの人生で、国語辞典を引いた回数は、英語辞典のそれの一万分の一くらいだと思うし、英語の文章読本としては、Joseph Williams の Style: Towards Clarity and Grace という文章読本に出会うことができた。まとまった英語を書くときには、この本にさっと目を通してから書くし、今日は構文と単語の選択の調子が狂っていると思ったときには、同書を広げてコツをとりもどす。 

 最近、日本語の本を書くという仕事を意識するようになってから、国語辞典を引く習慣を努力してつけようとしている。あとは、自分の支えになるような文章読本を見つけることだと思って、英語の文章読本のような使い方ができるかどうかという観点で、何冊か当たりをつけて読んでみた。 読んだ三冊の中では、やはり文学者が書いただけあって、谷崎と三島のものが良かった。読んで面白く、目的地は何かということが指し示されていて、「やる気」が湧いてくる。ヴィジョンを示してくれる文章読本である。一方、中村の『悪文』は、自分の文章の欠点を分らせてくれて、気をつけなくてはならない点を意識させてくれた。 どれか一つを選ぶことができなかったから、この三冊全部を本棚の「レファレンス」のコーナーにおいた。

 そんな本を読んでいる暇があって、その記事を書いている暇があるのなら、本の原稿そのものを書いたらどうですかと言いたい人もいるかもしれないけど(笑)。