19世紀ヨーロッパ史

 必要があって19世紀ヨーロッパ史の教科書というか入門書を読む。文献は、Blanning, T.C.W., The Short Oxford History of Europe: the Nineteenth Century (Oxford: Oxford University Press, 2000).私は「ヨーロッパ史」という科目をまともに習ったことがないし、そういう本も実は読んだことがないので、色々なことが新鮮だった。

 『オクスフォード・ヨーロッパ小史』という11巻本のシリーズのうちの一冊。EU統合の影響もあって、イギリス史があってフランス史があってドイツ史があって・・・という<各国史>の枠組みを大胆に壊して、<ヨーロッパ>という単位を考えようとしている。この書物も、複数の執筆者によるものだが、国別の構成ではなくて、「政治」「社会」「経済」「文化」などの主題ごとに、一人の学者がヨーロッパ全体を視野に収めた章を書き下ろすという構成になっている。このスタイルがとても成功している章もあるし(「政治」の章は読み応えがあった)、「社会」のように、あまりうまく行っていない章もある。しかし、一つのパラグラフの中で、英仏独はもちろん、ガリシアフィンランドなどの事例が縦横無尽に語られているのを読むのは痛快だった。こういう学者たちの努力を通じて、「ヨーロッパ」が単に政治・経済上の連合というだけでなく、差異を内包した歴史的なまとまりになっていくのだろうな、と実感した。


 一つ、紹介されていた笑い話を。ドイツで農民が選挙権を得たのは1871年だそうだが、その「選挙」というのは名ばかりのもので、地主はあらかじめ氏名が記入してある投票用紙を封に入れて農民に配り、それを投票箱に入れるように指示した。一人の農民が、いったい自分は誰に投票するのか知ろうとして、封を破ってそこに書いてある名前を見ようとしたところ、警官にどやされて、「馬鹿者!これは秘密投票だ!」と叱られたという。「秘密投票」の「秘密」というのは、投票者自身に「秘密」であるということを意味しても良かったんだ(笑)