出張の移動時間に、辻邦生『花のレクイエム』を読む。
一ヶ月に一つずつその季節の花が選ばれて、その花をストーリーに織り込んだごく短い辻邦生の短編に、山本容子さんの版画が添えられて、一月の山茶花から十二月のクリスマスローズまで、短編と版画を一年分で12セット収めた短編集。山本さんの版画は、花を中心にした不思議な主題で、柔らかい幻想的な画風が美しい。辻の短編は、淡い恋、忍ぶ恋、死別した人への想いといったテーマで、それぞれの花を効果的な小道具にして、余韻がある物語になっている。それぞれ心に響く話だけれども、正直言って、好きな作家の意外な一面を見た感じ。この作品を読んで、辻邦生という作家を以前より好きになったかは分からない。
お題になっている花を選んだのは、この作品が連載された『挿花』という雑誌の編集者だという。どうせなら、辻邦生が自分で好きな花を選んだほうが良かったのに。