『明治のおもかげ』

必要があって、鶯亭金升『明治のおもかげ』(東京:岩波文庫、2000)を読む。私が全く知らない話題ばかりで、楽しく読む。

江戸の雰囲気が残る明治の東京の市井の人々の姿を洒脱に描いた随筆集。落語、芝居、謡などの江戸時代以来の芸人や昔ながらの職人などが、明治になっても江戸時代のような生活をしているありさまをいかにも江戸っ子らしい雰囲気で描かれている。年号が変わって維新になったからと言って、人々の生活は急には変わらないということを改めて確認させてくれる。筆者は、まあ言ってみれば新聞記者だけれども、この新聞も江戸のかわら版だよな、と思う。

これだけでもあんまりなので、一つ面白かった話を。冒頭の章で、浅草に昔あった見世物小屋の話をして、怪談物の人形の話が、医学見世物と重なるようで面白かった。土左衛門と称して、水上に色青ざめ、水で膨れた死体が浮いている人形で、羽根を抜いて飛べなくしたカラスを泊まらせて、人形の腹に詰めた魚のはらわたをついばませて、水死体をカラスがついばむ趣向の見世物があったという。あるいは、鬼婆が孕み女の腹から赤子を引き出している趣向の人形もあったという。この手の見世物と、医学知識の距離は、どの程度近かったのでしょうかね。