公衆衛生の歴史・不思議な名著

必要があって、公衆衛生の歴史を通史的に総覧した研究書を読み直す。文献は、 Porter, Dorothy, Health, Civilization and the State: a History of Public Health from Ancient to Modern Times (London: Routledge, 1999).

ちょっと無駄話を。この本は不思議な本である。古代から現代までの西洋をだいたい全部カバーしようとしている構成からいって仕方がないのだけれども、通読するのは正直言って退屈だった。しかし、いったん頭の中に本の内容の地図が出来てしまうと、二度、三度とチェックするのにこれほど便利な本はない。西洋のコレラと民衆暴動についてどんな議論があったかしら・・・と思って該当箇所を調べると、イギリスではどんな事件、ロシアではどんな事件、歴史家たちの解釈がいくつか、そしてこれらをまとめた重要な文献はエヴァンスの1988年の論文という、我々プロの学者が一番欲しい情報がコンパクトに書いてある。 通読して楽しくはないけれども、本棚にあるとよく参照するというレファレンスに近い使いかたをしている。 こういう「隠れた名著」の書き方もあるんだ。