軍隊の合理的管理と軍陣医学

未読山の中から、軍陣医学の合理化を鳥瞰した論文を読む。文献は、Harrison, Mark, “Medicine and the Management of Modern Warfare”, History of Science, 34(1992), 329-410.

著者はイギリスの医学史研究の第一人者の一人で、バランス感覚と目配りがいい仕事をたくさんしている実力者。この論文は、最近大きな書物に結実したが、その内容の骨格だけを書いたもの。幾つかの主要なテーマを並べているもので、手っ取り早くポイントを掴むことができる。

近代的な軍隊(著者はだいたい19世紀以降と考えている)にとって、軍陣医学は決定的であった。戦闘に直接的にかかわる負傷ではない、野営地などの劣悪な衛生環境による無駄な病死を劇的に減らし、食料の供給などについての標準化を行い、兵士に科学的な規律を教え込み、伝統的なアマチュアのジェントルマンによる軍の管理ではなく、科学的な知識に基づいた管理という概念の先兵となり、一方で兵士たちに「権利としての健康とヘルスケア」という発想を伝える媒介となったありさまが列挙されている。それぞれが簡潔に描かれている。