聊斎志異

必要があって『聊斎志異』を読む。もともと仕事の関係で読んでおこうと思ったのだけれども、読み始めたらものすごく面白かった。色々な版が出ているのだろうけれども、全体の1/3 くらいが訳出された岩波文庫版の上下二巻を読んだ。全訳したものを一冊に収めた、ちょっとした電話帳くらいある本も出ている。

多様な奇譚が集められ、翻案されて語られている。狐や死者の霊(「幽鬼」と訳されている)が出てくるものが多い。狐は若く美しい女性で、死者の霊はたいがい女で、どちらも生きている人間の男をなまめかしく誘惑して深い仲になるけれども、西洋のファム・ファタールとはまったく違う。狐が扮する中国美人は、男を破滅させるどころか、男と結婚したり第二婦人になったりしたあとも、まめまめしく働いて家を切盛りし、傾いた家産を復興させたり、夫が高位高官に上って栄えるのを手伝ったりする。狐美女との過度の房事で男が衰弱して死にそうになると、奇跡的に回復させる不思議な薬の練り方を知っていたりもする。夫の老父母に対してはかいがいしい嫁でもある。何よりも面白いのは、彼女たちは自分が狐や霊であることを、とりたてて隠しはしないことである。自分は○○省の出身で、ということでも言うような口調で、「実は、私は狐なのです」とさらりという。