江戸時代の麻疹 I


今日はいつもと違う性格の記事を書きます。私がずっと不思議に思っていることがあって、皆さんにアイデアをいただきたいという趣旨です。

「痘瘡は器量定め、はしかは命定め」という江戸時代のことわざの意味を正確に知りたいのです。このことわざは、江戸時代には麻疹(はしか)の死亡率が高かったことの証左として、耳にたこができるほど引用されています。(実は、恥ずかしいことですが、私は出典とかことわざ発展の経緯とか、そのてのことは知らないのですが・・・)プロの医学史研究者でも、このことわざを素直にとって麻疹による死亡率が高かった証拠としているものもいますし、中には、調子にのって(笑)、江戸時代には天然痘(痘瘡)よりも麻疹のほうが死亡率が高かったと言う人までいます。

しかし、そんなことがありえるでしょうか? たしかに、このことわざを、いちばん素直に解釈すると、「痘瘡にかかると器量が決まり、はしかにかかると命が決まる」と言っているわけですから、天然痘よりも麻疹のほうが致命率が高いと言っているように解釈できることは事実です。でも、天然痘と麻疹を比べて、後者のほうが致命率が高いことって、実際にありえることなんでしょうか? これは、私は組織的なリサーチをしてみたわけではありませんが、現代医学の治療をしない場合(30年前の現代医学という意味ですが)、天然痘の致命率はだいたい50%前後、麻疹の致命率は高くても一桁台のパーセンテージにとどまっているというのが、私の印象です。致命率で言って、10倍以上の違いがあるのが普通だと考えていいと思います。 同じ社会で同じ時代において、この両者の致命率が逆転することがありえるのでしょうか? そして、ここがキモですが、逆転するとしたら、どんな条件のもとなのでしょうか?

あ、念のために言っておきますが、私は、麻疹のほうが天然痘よりも致命率が高いことはありえないとか、江戸時代のことわざは間違っていたとか、その方向で決め付けようとしているのではありません。何か言いたいことがあるとしたら、このことわざは、「もしかしたら」すごく不思議な事実を語っていて、それが不思議であることを正面から考えたほうがいいのではないかということです。

画像は幕末の麻疹流行の際に出版された錦絵。 麻疹が流行したため、人々が買い控えた商品(すし、二八そばなど)が、麻疹に仕返しをするという趣向で、その一部分を拡大しています。