ガルシア=マルケス『エレンディラ』


ガルシア=マルケスの短編小説を集めた作品集を読む。鼓直木村栄一訳の『エレンディラ』(ちくま書房)。表題作ほか、六編の「大人のための残酷な童話」として書かれた短編をおさめている。

老婆とその孫娘がコロンビアの田舎町で暮らしていた。老婆の夫は密輸で財をなして、夫の死後もコロンビアの田舎町でけばけばしい豪奢な生活をしていたが、その豪邸は、その孫娘のエレンディラの不注意のために、夜の間に風が吹き込んで火事になり、老婆はすべてを失う。その償いをさせるために、老婆はエレンディラを娼婦に仕立てて、町から町へと回って無数の男の相手をさせる。彼女は辺境地帯で有名な娼婦になり、彼女の一行の周りには音楽隊や写真屋などが随伴して移動するカーニヴァルのようになっていく。がめつく料金をまきあげた老婆はふたたび金ぴかのがらくたに囲まれて、エレンディラを稼がせて、田舎町を巡回している。

そのうち、エレンディラの評判を聞きつけて会いにきた美少年のウリセス(彼も密輸業者の息子である)と少女は恋に落ち、二人は、自分の人生の秘密を物語る老婆の寝言をBGMにして愛し合う。ウリセスは何度も老婆を殺そうとするが成功しない。巨大な毒入りのバースデーケーキをまるまる一個、てづかみでむさぼるように食べても、彼女は死なずに、髪が抜けて丸坊主になっただけだった。しかしついにウリセスは老婆を刺し殺し-その血は緑色だった-、エレンディラは砂漠へと走り去っていったが、これは解放でも逃亡でもなかった。作品は、「その後の消息は杳としてわからない。彼女の不運の証になるものは何一つ残っていない」と締めくくられる。このように要約すると、作品の魔法のような雰囲気と、老婆の寝言が作り出す彼女の過去の反響と、安物のけばけばしさがかもし出す実存主義めいた高貴さ(笑)はぜんぜん伝わってこないけれども、とてもインパクトが強い作品だった。

表題作以外にも面白い作品ばかりだった。私は、年老いた天使がコロンビアの村に落ちてきて見世物にされる話が面白かった。 

『エレンディラ』は映画化されていて、すごく珍しいことですが、これ、学生時代にパルコのシアターで観ました!(笑)イレーネ・パパスの老婆の役が圧倒的な存在感があった記憶があります。プログラムでは白石かずこさんが、パパスを絶賛していた。