島嶼の疫学

島嶼における感染症の伝播を論じた書物を読み直す。文献は、Cliff, Andrew, Peter Haggett and Matthew Smallman-Raynor, Island Epidemics (Oxford: Oxford University Press, 2000) 感染症の「伝播」の疾病地理学ならば他の追随を許さないハゲットたちは多くの本を書いているけれども、これがおそらく最良の仕事。長い本だけれども、彼らが過去20年近くの間に蓄積してきたいくつかのリサーチをゆるく集めたものだから、一冊の本というよりもいくつかのクラスターに分かれている。 

このチームの仕事は、私は一時かなり読みこんだ時期がある。フィジーの麻疹に、フィリピンのコレラ、アイスランドの麻疹、ドミニコ共和国のAIDSなどなど、色々な論文などでもおなじみの議論が繰り返されていて、かなり使い回しの度合いは激しいけれども、指標の選び方といい、ヴィジュアルな表現の仕方といい、巨匠というにふさわしい議論である。何よりも、島嶼という閉じられた空間は、疾病地理学の「実験室」であるという発想がいい。日本の歴史疫学を考えるときの最大のヒントはこの本にある。