『シザーハンズ』


必要があって、映画『シザーハンズ』を観る。1990年の作品で、ティム・バートンが監督、ジョニー・デップウィノナ・ライダー他が出演している。デップのキャリアにとって、この作品は個性派の俳優への一つの転機になり、また現在に至るまで続いているバートンとの共同関係の第一作であったそうだ。以下の記事にはネタバレがあります。

ゴシック小説系のSFのパロディに、アメリカ郊外の凡庸な小市民たちのカリカチュアを重ね合わせて、それを甘く切ないおとぎ話に仕立て上げた、すごくクレバーな作品。主人公のエドワード・シザーハンズは、ゴシック調の城に一人で住むマッド・サイエンティストが、ブリキ工場のような製作機械を駆使して作り上げた人造人間。他はすべて完璧だけれども、博士の予期せぬ死で、手の代わりに巨大なハサミががちゃがちゃとついている。その城に化粧品のセールスレディがセールスにきて、エドワードを発見し、家につれて帰って新しい家族の一員になり、ご近所にも紹介されて、このハサミ人造人間がアメリカの郊外社会の一員として生活を始めることになる。エドワードはウィノナ・ライダー演じるところのペグの娘に恋をして、二人は最後には相思相愛になるのだけれども、ご近所さんたちはエドワードを誤解して恐れて追放し、エドワードは例のゴシックな城で一人で暮らすことになる。しかし、離れ離れになった二人の間の思いはその後も繋がり続けることになるという甘く切ない結末。

この映画は「障害者」を主人公にした映画であると言えなくもない。とすると、この映画を、障害学の授業やセミナーのテキストに使うなんてことがありえるんだろうか?いや、もちろん、議論のネタになるところは沢山あるけれども、この、煮ても焼いても食えないほどセンスがいいパロディとコメディを題材にして、障害者の当事者主義だとかエンパワメントだとか、そういう真剣な授業をするのを想像できないんだけど・・・ でも、たぶん、そこがツボなんだろうな。