『つぐない』


何の必要もなかったけれども(笑)、映画『つぐない』を見る。ジェイムズ・マカヴォイとキーラ・ナイトレー主演。

ある少女が、淡い初恋を抱いていた姉の恋人の男を強姦事件の犯人に仕立ててしまい、その男は大学に進学するはずだったのが、刑務所から第二次大戦に出征しダンケルクの海岸で死に、男の恋人もロンドンの空襲で死ぬ。少女は長じて小説家になり、年老いて死と痴呆化を目前にして、最期の作品として、そのときの自分の物語を『つぐない』(Atonement) という小説にして、その小説の中で事実を語り、そして事実とは違うが起きてしかるべきだった詩的真実を語る。 その小説が追憶の中で映像化されるというメタ物語的な構造を持っている。

ポスターを見ると、いまをときめく若手美人女優のキーラ・ナイトレーとハンサムなジェイムズ・マカヴォイがかなりの部分を占めているけれども、本当の主人公は、上の要約からも分かるように、文才豊かな少女である。この少女の成長に合わせて、13歳のとき、18歳のとき、そして痴呆化を目前にした晩年という、三つの時期にわかれている。それぞれ別の女優さんが演じていて、13歳の少女役を演じた子役はちょっとした天才少女で、おませな女の子の雰囲気を作るのがすごくうまかった。18歳の娘役はまあまあ。そして、晩年の彼女を演じたのはヴァネッサ・レッドグレイヴで、彼女が最後の10分間カメラに向かって話し続けただけで、それまでは凡庸な作品と思っていたのが、傑作を観たという印象になってしまった(笑)。大女優というのはすごいものだなあ。

少女に、真実を告げて自分の無実の罪を晴らすよう迫る男の台詞が、心に残った。 "No rhymes, no emblishments"(「韻を踏まなくていいし、文飾もしなくていい」