『ライラの冒険 III  琥珀の望遠鏡』

『ライラの冒険』の三部作の締めにあたる『琥珀の望遠鏡』。少年と少女の愛は成就し、世界は救われ、服従を強制する悪の秩序は打ち倒され、新しい自由な道徳の体制が現れてハッピーエンド。

第三部の中心に据えられている概念は、第一部からずっと出てきたけれども、その謎が解かれていなかった「ダスト」という物質の年代記である。意識を持つ世界の原理の微粒子とでも考えるといいのだろうか、このダストが、複数世界の間に通路があちこちに開けられたので、その通路から漏れ出して奈落の底に流れ落ちてなくなってしまっているというのが、主人公たちが立ち向かわなければならない宇宙論的問題である。ちなみに、このダストを人間が見ることができるようにした道具が、表題になっている「琥珀の望遠鏡」である。

この環境問題に、二つの問題が絡んでくる。 一つは世界の覇権争い、もう一つは個人の霊魂の救済の問題である。 ライラのお父さんとお母さんは、反乱をおこして同志を集め軍需産業を振興し、教会権力の軍勢と一大決戦を行い、両親は天使(この物語の登場する天使の多くは悪役である)と格闘をして相打ちに持ち込んで天使を滅ぼす。ライラは死者の国に降りて、地獄の守番の妖怪と新しい契約をして死者に新しい運命を与え、これからは死者は薄暗い死者の国で冷たく無活発にしているのではなく、生者の国で千の風になって飛び回っていい(笑)ことになる。ライラと少年が愛し合うようになると、ダストの環境問題は一気に解決に向かう。 それ以外にも進化論あり無神論ありの、盛りだくさんな内容。

このシリーズの第一作は映画化されていて、ライラのお母さんで、その魅力で誘惑できない存在はいない「コールター夫人」というキャラクターをニコル・キッドマンが演じている。少し前に飛行機の中でこの映画を観たときに、「氷の微笑2」のシャロン・ストーンのようで、悲しさと困惑が入り混じった感情を持った。この第三部では、コールター夫人の無敵の魅惑力は異種の生物にも広がり、ついには神の世界の摂政であるメタトロンという天使を誘惑するシーン、そしてその天使がコールター夫人の肉体に発情するシーンがあって、ここをキッドマンが演じることになるのかと思うと、今からとても悲しく、とても困ってしまう(笑)。