アラビアン・ナイトより


今日は無駄話をする。

しばらく前から『千夜一夜物語』をちびちびと読んでいる。色々な版や訳があるけれども、私は、何かのゆきがかりで、大場正史がバートン版から訳したちくま文庫のものを読んでいる。古沢岩美というシュールレアリストの画家が描いたイラストが一昔前の成人向け劇画雑誌のようですごくミスマッチで気恥ずかしいけれども、しばらくすると慣れてきた。それどころか、活劇的というか紙芝居的な、チープでキッチュなスリルが、アラビアン・ナイトの魅力の重要な一部かもしれないという気になっている。

いわゆるアラビアン・ナイト的な物語―不思議な冒険に山と積まれた財宝、珍味佳肴の食卓に香り高い花と果実が匂う園、そして月のように美しい美男美女―も面白いのだけれども、いつもとは違う面白さを持つ短い物語があったので。

バートン版だと、294夜から始まる「ペルシャ人アリ」というごく短い話。ある男が従者に袋を持たせて旅をしていた。すると、一人のクルド人が突然現れて、その袋は自分のものだと言い張る。二人は言い争い、とうとう判官の前で決着をつけることとなる。判官にその袋には何が入っているかと尋ねられたクルド人は、「手前の袋の中には、まぶた用のコール粉とアンチモニーに使う白銀つくりのさし筆二本、ハンカチ一枚、杯二つ、燭台二つを包んでおきました。そのほかには、天幕二個、大皿二枚、さじ二本、皮の敷物二枚、牝猫一匹、牝犬二頭、牝山羊一頭、豹が二匹、長椅子二個、客間がひとつ、二階部屋がひとつ、出入り口の二つある台所がひとつ、それに、その袋がてまえのものだということを証してくれるクルド人の証人連中もはいっていますんで」と答える。次に判官は、もとの男に向かって、お前の番だ、袋の中には何が入っているか答えるがよいと尋ねるが、クルド人の答えにすっかり肝をつぶしていた男は、「実は、この袋には、まだ少しばかり、こわれた小さな住まい、子供用の学校、すごろくをしている若衆たち、バソラとバグダッドの町、千人ばかりのあいまい宿の亭主も入っています」と答える。こんな調子で、二人が交互に答えていくうちに、袋の中に入っているものは途方もないものになり、「城と砦」「ふたなりが一人、囚人が二人、盲人一人に目利きが一人、チンバ一人に不具者が一人」「町がひとつに村二つ」「婚礼の祝宴とどんちゃんさわぎ」「まことの友達に愛する人々」「アビシニアの女5人にインドの処女三人、アル・メディナーの乙女四人にギリシャ娘20人」など、競うようにして二人は何が入っているかを並べ立てて述べる。業を煮やした判官が袋を開けるように命じると、これはまたなんと、「パンと、レモンと、チーズとナツメヤシの実がはいっているばかり。そこで、てまえは、クルド人の前に袋をたたきつけて、さっさとひきさがってしまいました。」

バートンはこれに注をつけてラブレー的な面白さだと書いているし、落語のオチにちょっと近い面白さもある。