瘧の民俗学



必要があって、瘧(マラリア)の民俗誌を読む。文献は、渡邉富彦「『瘧』の民俗誌―その歴史と民間伝承・民間療法の諸相―」『地域文化論叢』9(2007), 69-95.

マラリアといえば沖縄の八重山が有名だけれども、「瘧」と呼ばれた病気は、少なくともある時期には日本の内地に広く分布していた。歴史上の疾病の同定というのは厄介な仕事だけれども、一日おきに規則正しく熱が上下することが10日ほど続くマラリアは、歴史的な疫学を研究しやすい病気である。(ちなみに、日本では三日熱マラリアが圧倒的に多かったようだ。)この論文は、愛知県を中心に、日本の各地に残る「瘧」に関する民俗を広く収集して、まずいったいどこにマラリアに関する習俗や言い伝えが残っているかを確かめたものである。その結果「北は青森から南は琉球列島まで」、マラリアに関する習俗が存在していることが確かめられた。これは、それだけでもとても重要な知見である。私は民俗学の方法は知らないけれども、マラリアを治す色々なまじないなどを列挙していて、それらを分析できる力の持ち主なら、色々なことが分かるのだろう。特に、「土蜘蛛」という巨大な蜘蛛の妖怪とマラリアが関係あることは初めて知った。

土蜘蛛が吐く糸と関係あるのかどうか知らないが、マラリアをめぐる民間伝承には、縄などで「縛る」という主題がよく現れる。マラリアを発病すると石仏や地蔵さんなどを縄で縛って祈り、平癒するとその縄を解くという民俗が数多く紹介されている。一日高い熱が出て苦しみ、翌日には熱が下がり、次の日にはまた熱が上がるというパターンを、縛られて、緊縛から解放されるということになぞらえたのだろうか。 

妖怪とボンデージの話しにマラリアを絡ませる論文をかけたら、さぞかし外国人の日本エキゾティシズムのサブカルチャーにアピールするものになるだろうな(笑)。

画像は Wiki の「土蜘蛛」から取った。