移民の食事とアイデンティティ生成

新着雑誌から、移民の食生活に関する面白い論文を読む。文献は、Orangen, Knut, “The Gastrodynamics of Displacement: Place-Making and Gustatory Identity in the Immigrants’ Midwest”, Journal of Interdisciplinary History, 39(2009), 323-348.

食事は、「何を自分の体に同化させるか」ということと直接結びつく行為であり、自己のアイデンティティを保つことと深い関係がある。また、食事というのは家族なり仲間なりとの連帯を作り出し維持する行為であるから、共同体形成とも深い関係を持っている。こういった洞察を、ジンメルレヴィ=ストロースブルデューといった社会科学の大物の理論を使って展開した上で、これまでと同じ食物が手に入らない移民は、どのようにして食事を選択し、自己と共同体のアイデンティティを形成しているのだろうということを論じた論文である。リサーチのコアは、アメリカ西部に移住した東欧からの移民者たちの話で、ここはぴんとこなかったけれども、イントロダクションの部分は要点を的確にまとめた、教材にぴったりの長さで便利な論文である。何よりも、食事の社会科学の部分が豪華な大物の理論を揃えていて、食事や栄養学・栄養指導の社会史が、あたらしい理論的なフェーズに入っていることをひしひしと実感した。 

移民の医療ということをちょっと考える必要があるのだけれども、とてもいいヒントがちりばめられていた。