必要があって、古代の薬の集大成である「大同類聚方」を解説した書物を読む。文献は、槇佐知子『病から古代を解く-「大同類聚方」探索』(東京:新泉社、1992、改訂版2000)
「大同類聚方」は、808年(大同三年)に、勅命によって安部真直・出雲広貞らが、全国の神社、豪族、典薬寮に伝わる薬方を集め、百巻に収めたと伝えられている書物である。この書物の現存する写本の真贋については長い論争があり、明治時代以降は偽書であるとされた。それを敢えて取り上げ、この難解な書物を個人全訳したのが作家の槇佐知子である。この「幻の医学書」をめぐって彼女が書いたエッセイを集めたのがこの書物である。
文献学の蓄積がない中で、しかも独学での古典医学の書物を訳す仕事は非常に困難だったことだろう。もし本物だったら間違いなく第一級の医学史資料となる書物に果敢に挑戦した志は、心からの尊敬に値する。槇の訳業に対しては、菊池寛賞をはじめとして既に数々の栄誉が与えられているので、私が改めて称えるまでもないし、また私にはその資格はない。
その上で言わせてもらうと、この書物(『病から古代を解く-「大同類聚方」探索』)にはたぶん槇の悪い面が集約されている。支離滅裂な論の運びは読むに耐えないし、確実な論拠がある議論(これは非常に少ない)と無規律な想像の部分を飛躍する記述のスタイルも、何をこの書物から学べばいいのか当惑させる。