啓蒙主義の医学

必要があって、啓蒙主義時代の医学史の論文集を読む。文献は、Grell, Ole Peter and Andrew Cunningham eds., Medicine and Religion in Enlightenment Europe (Aldershot: Ashgate, 2007).

啓蒙時代のヨーロッパの色々な地域やトピックをカバーした論文集で、ポルトガルやスペイン、それから教皇自身の「啓蒙」まで論じている。どれも面白そうだったけれども、有名だけれどもまだ仕事を一つも読んだことがなかった、Jonathan Israel のオランダの啓蒙と医学についての論文を重点的に読む。(“Englightenment, Radical Enlightenment and the ‘Medical Revolution’ of the Late Seventeenth and Eighteenth Centuries”)

大きな目標は、医学の社会史に対して思想史を復権しようという狙いと、18世紀の医学の思想的ヴァイタリティの再評価である。モデルとしては、保守的な順に、「反宗教改革派」「穏健啓蒙派」「過激啓蒙派」の三つのタイプに分かれて争っていたものと捉え、その中野「過激啓蒙派」と呼べる思想を奉じた医者たちが構想した医学改革の案を紹介している。紹介されている過激啓蒙主義の医者としては、ラ・メトリとマンデヴィル(『蜂の寓話』)は有名だけど、主に力を入れているのはオランダの医者たち。ボンテクー(Bontekoe) という医者で、デカルトにインスピレーションを受けスピノザの影響を強く受けて過激啓蒙主義を奉じ、オランダの自由な都市で、宗教や国家の権威に反対して自由思想を唱えて公共圏を形成した、現在の「知識人」の原型にあたるような医者だという。私がまったく名前を聞いたことがないような医者で、感心して読んだ。

ボンテクーなどの話は面白かったし、話はシャープだったから満足したけれど、大きく構えているわりに、どこがそんなに斬新なのかがちょっと分からない。例えば、マーガレット・ジェイコブらの議論とどこがどう違うのだろう?