必要があって、障害の歴史の研究レヴューを読む。文献は、Kudlick, Catherine J., “Disablity History: Why We Need Another ‘Other’”, American Historical Review, 108(2003), 763-793.
医学・病気の問題と障害の問題は深い関係があって、医学の歴史を研究しているつもりが、気がつかないうちに障害の問題に入り込んでいることがある。特に慢性化する病気や、後遺症が問題になるときは、医学の側面は後景に退いて障害の側面が前面に出てくる。障害の歴史の視点から医療の歴史の問題を考える機会をいただいたので、喜んで、時間を見つけては「障害の歴史」の歴史の視点を学んでいる。
これは、よく引用されている評判のレヴューだけど、やはりよく出来ている。「障害の歴史」とくくることができる最近を本を10冊くらい選んで批判的に紹介し、障害の歴史の可能性を探るという構成になっている。出来が悪いレヴュー論文にありがちな、内容を要約するだけでなく、展望をさぐることに力点が置かれているのがいい。個々の書物に対するコメントも面白いものが多かったけれども、全体としてのメッセージはクリアーで、障害というのは、人種・階級・ジェンダーと並ぶ、歴史学が用いる重要なカテゴリーであること、そして、このカテゴリーを、たとえば国家や資本主義や戦争などの、歴史学の重要な主題の中に位置づけることで、障害の歴史はメインストリームの歴史学の一部になっているということである。
この「メインストリームの歴史学の一部」というのが実はくせもので、「当事者主義」などのラディカルな障害学の洞察を殺すことなく、しかしアクティヴィストの図式にありがちな善悪がはっきり分かれるような単純な歴史把握や、当事者だけに局限した狭隘な視点から距離をとって、より洗練されて深いものにしていくことは、もちろん難しい。