『国境の南、太陽の西』

出張のときの雑駁な読書ノート。村上春樹の『国境の南、太陽の西』。講談社文庫に入っている。

不安と空虚を蔵して生きる都会のヤッピー、「ハジメ君」が主人公。妻の父に出資してもらって青山に開いた「ジャズを流す上品なバー」を経営して成功させて、アルマーニの服を着て、BMWを運転して、箱根に別荘を持っている。妻と娘二人の幸福を絵に描いたような生活。

小説の本当の舞台は、主人公の記憶の中になる。12歳のときの淡い恋の相手、「島本さん」と、高校のときの青い性の相手、「イズミ」。 前者は、(おそらく)金持ちの男の愛人としての影がある女になり、後者は、(多分)精神病になって、どちらも主人公の人生に再び帰ってくる。「島本さん」が、主人公のバーを訪れて、彼女と会うようになって、二人は一晩だけ激しいセックスをして、別れる。ついでにいうと、奥さんも、かつて失恋して自殺未遂を経験し、さらについでにいうと、主人公がイズミと付き合っているときに、セックスのためだけにあっていたイズミの従姉は、作品の半ばくらいで自殺する。 。

それぞれの記憶の中の女たちが、「彼のせいで」、それぞれの破滅に到達したあと、主人公は妻とよりをもどして、幸福で空虚な生活へと帰っていく。

ジェームズ・ボンドが、ピストルをおしゃれなジャズのレコードに持ち替えて、記憶の舞台の中で静かな活劇を展開しているような印象を持った。 これは、良い印象なのか、悪い印象なのか、よくわからないけれども。