山田慶児『中国医学はいかにつくられたか』

必要があって、私が知る限りでは、中国医学史の最良の入門書(という言い方は正確ではないけれども)を読み直す。文献は、岩波新書から出ている、山田慶児『中国医学はいかにつくられたか』(1999)

中国医学史のイロハくらい知っておきたいと思って、中国医学史入門というようなものを時々読んでみたことがあるけれども、これが意外に敷居が高い。何を学べばいいのかよく分からないまま、本の名前と人の名前が羅列されて、結局頭に残ったのは、西洋医学(史)の概念で中国医学(史)を考えてはいけないという拒絶的なメッセージだけ、という経験をしたこともある。

この本を読んだときには、とても嬉しかった。西洋の科学史や医学史を学んでいる学者でも、この書物になじむことができる。論じている内容のテクニカルな水準は決して低くない。それどころか、私が読んだことがあるものより、むしろ専門性は高いと思う。それにもかかわらず分かりやすいのは、(西洋)科学史・医学史でも使われている、いくつかのキーコンセプトが使われているからである。例えば、治療の実践技術と、それを説明する体系的な理論の関係という概念。身体をなにかになぞらえる「モデル」「身体像」という概念。そのせいか、論理的に読み進めることができる。たとえば、この書物のコアの議論の一つである、中国医学の本質を形作ったのは鍼であるという主張は次のように表現されている。

「薬も使わず、手術もせず、小さな鍼だけですべての病気を治してみせよう。これが華々しく登場した鍼法派の宣言であった。その宣言にふさわしく、かれらは鍼法の技術と理論を完成させ、その治療法を社会的に確立し、また後継者を養成するために、活発な活動をくりひろげる。」 

このあたりの説明の仕方も、私にはとてもなじんだ。

一つ不安なことは、著者自身が、この本が展開しているのは正当的な中国医学史の見解と違うと断っているけれども、どこがどう違うのかということをあまり説明しないまま自説を展開している点である。やっぱり、正統的な中国医学史の記述というのは、「外側からは」わからないものなのだろうか。どなたか、どの本が分かりやすいだろうというようなアドヴァイスをいただけませんか。