雨月物語・春雨物語

夏の夜は日本の古典的な怪談が恋しくなるから、上田秋成の『雨月物語春雨物語』を現代語訳で読んだ。石川淳が訳しているちくま文庫版。さすが、プロの文学者の訳だけあって、現代語訳の文体を使い分けている。『雨月物語』では、絢爛豪華で夢幻的に折り重なるような文体の中に、いにしえの貴人の怨霊の魔道の呪いなどが描かれる。一方、『春雨物語』の主人公たちは、ピカレスクというか「悪党」で、短い文章を叩きつけるようにして、流れを断ち切るような荒々しさを持った文章が効果的に使われている。特に、私は、寡聞にして知らなかったが、『春雨物語』のなかの、「樊噌」という作品があって、引き込まれるように読んだ傑作だった。巻末に付された解説で三島由紀夫がこの作品を評して、「一種爽快な、白壁に打ち付けた墨痕のような「悪」のめざましい表示」と書いているが、この言葉でもまだどこか足りないような魅力がある。このあたりは、文学に詳しいnonajun さんとか大三元さんのご意見を伺いたいのだけれども、「ハードボイルド」であるようでもあり、ボルヘスの「悪党列伝」にも似ているような、独特の不思議な雰囲気がかもしだされている。