女性性器切除

必要があって、アリス・ウォーカーの小説、『喜びの秘密』柳沢由美子訳(東京:集英社、1995)を読む。原作が出版されたのは1992年で、当時アフリカ諸国で行われていた「女性性器切除」を告発する文脈で書かれた小説である。こういう「政治的に明確な主張」がある小説というのは、作品として読むに耐えないものがときどきあるけれども、そこは一流の作家だから、知的で繊細だけれども効果的なストーリーの展開に乗せて、心に響く内容に仕立ててある。この習慣をめぐっては、虐げられた女性を解放しようとするものなのか、西欧の価値観を押し付けて民族固有の文化を破壊しようとするものなのか、論争があったという。

主人公はアフリカのオリンカ族という架空の部族の女性で、名をタシという。当地に来ていたアメリカ人の男性と恋に落ちて結婚し、アメリカに移住してエヴリン・ジョンソンという新しい名前を持つ女性になっている。オリンカ族には秘密の儀式があり、それは、すべての女性の性器を少女時代に大きく切除して縫い合わせるというものであった。この、抉り取られて縫い合わされた女性性器は、新婚初夜のときに、夫のペニスの挿入によって再び切り裂かれ、それからの性交のたびに、女性性器は暴力的に切り裂かれることになる。この風習は、女性の貞節を確実なものにするために、性交を女性にとって耐え難いほど苦痛に満ちたものにするものだとウォーカーは解釈しているようである。

主人公のタシは、オリンカ族の独立運動に高揚し、部族の誇りとしてこのしるしを身体に刻み込むために、10代になってわざわざこの切除を受けにいった。「マリッサ」という部族で尊敬されているヒーラーの女性で、彼女はこの手術(近代医学的なものではないけれども)をタシにほどこす。彼女の姉にもこの手術を施し、姉はそれの傷がもとになって死んだ。後に、タシはマリッサを殺し、彼女も死刑となる。

随所にちりばめられている精神分析と夢解釈のテーマも、小説の魅力を深いものにしていると思う。これは、作家が非常に優れているということに他ならない。