大正の適性検査



必要があって、大正期の京都の工場で行われた適性検査の実施記録を読む。文献は、増田幸一「適性検査法の実際(捺染工場に於ける実施記録)」『能率研究』3(1925), 299-379. 

いわゆる科学的な労働管理によって産業能率を上げる「テイラリズム」が日本に導入されてまもなく書かれた論文である。京都の日本製布という会社が、荒木能率事務所なる会社を介して、既に産業能率についての書籍を出版していた増田幸一に、会社での適正考査を行うことを依頼していた。増田は、産業能率の理論は書物を通して知っていたが、それを実際に行うのは初めてであった。必要な計測器具などを一から揃えなければならず、たとえば「オプトメーター」なる機械(写真・実態は、眼鏡屋さんにあるような、乱視を調べるような機械だと思う)は、ドイツ語の書物から図面を引いて日本の機械屋に作ってもらわなければならなかった。機械・器具による検査だけでなく、ペーパーテストを使った部門もあったけれども、そこでも一般知能検査は目的に合わず、急遽、自分で問題を作らなければならなかった。

この適性検査というのは、捺染という、布に模様を印刷する仕事を、版を彫る仕事、それを刷る仕事、仕上げる仕事などに分けて、それぞれの仕事にどのような能力が必要かを分析し、それに優先順位をつける。例えば、彫刻の仕事をするものは、形態を見分ける力が必要である、刷る工手は、形態を見分ける力も、機械の異常を察知する音響の弁別力も必要である、というような具合である。そして、検査によって計った色々な能力の得点に応じて、それぞれの個人に最も適した作業を担当させるという趣向になっている。これを科学的に行うためには、精神能力を色々に分けて、それぞれを取り出して測定することができるテストを考案しなければならない。この適性検査は、どの程度か知らないけれども、かなり増田が個人で作った部分もあるらしく、ちょっと面白かった。 

1. 迷路 2. 判断力 の試験を紹介します。