夢の歴史


必要があって、しばらく前から気になっていた「夢の歴史」についての論文集に目を通す。文献は、Pick, Daniel and Lyndal Roper eds., Dreams and History: the Interpretation of Dreams from Ancient Greece to Modern Psychoanalysis (London: Routledge, 2004). 

編者の一人の Roper は、ドイツの魔女狩りについての文化史・社会史の傑作(Oedipus and Devil) を書いていて、カルテに記されている患者の症状や妄想をどのように歴史のマテリアルとして使えるかどうかという問題を考えていたときに、大きなインスピレーションであった。予想通り、この論文集全体の水準も高いし、彼女が執筆したイントロダクションは、鋭さと良識を兼ね備えている。もう一人の編者の Pick も実力者である。

「夢の歴史」についての、ありがちな大きな流れのいくつかについての注意を喚起している。
フロイト流の夢の解釈が勝利する過程として夢の歴史を描くことは、誰も興味も関心もないから、特に注意を喚起しなくてもいい。かつては神聖であり、神が介入する場であった夢が、世俗化されたとか、夢が内面化されて、私たちは、夢を「見る」存在から、人格のカギとしての夢を「持つ」存在になったとか、その類の大きなナラティヴについては、そのもっともらしさと、それが当てはまらない部分の双方があることに注意することが必要だろう。

19世紀なかばに、シュールレアリストのような絵を描いたジャン=ジャック・グランヴィルの作品が解説されていた。不思議な絵になんとなく惹かれて調べたら、大学に全集のようなものがあるようだから、見てみよう。