フロイト派精神分析の「最終決算」

必要があって、フロイトの精神分析理論が「正しい」かどうかを検討した書物に目を通す。文献は、Erwin, Edward, A Final Accounting: Philosophical and Empirical Issues in Freudian Psychology (Cambridge, Mass.: The MIT Book, 1996). 

フロイトが構築した無意識の理論や性の理論などが、20世紀の社会・文化に巨大な影響を与えた重要な現象であり、それが深みを持った魅力ある理論であることを否定する人は少ない。で、普通、良識を持った大人は、その魅力の部分だけをうまく使って、そうでない部分は黙って無視するけれども、この質問をしなければならない。

フロイトの理論は、<正しい>のか?」 

精神分析は最初に提唱されてから100年になり、この60年間に蓄積された実験結果は1500を超えるという。それらを用いて、フロイト説が正しいかどうかの「最終決算」をする時期にきている。この質問を発すると、ある「理論」が「正しい」とは、いったい何を意味するのか、という科学哲学の大問題を正面から扱わなければならないが、幸いなことに(笑)、この筆者は哲学者だから、その手の議論が大好きで、この書物は、フロイト説の「正しさ」を検証するのにふさわしい基準の議論にほぼ半分を費やしている。正直、私はこの哲学のテクニカルな議論の部分は読んでいないけれども、丁寧に読んで考えるといろいろなヒントがあるにちがいない。読んだことがある人は、そのポイントを教えてくださいな。

そうやって検証の基準を整えたうえで、彼の「最終決算」は、予想通りである。フロイト説が正しいことを立証している証拠は、実質上ゼロであり、また、これから出てきそうな見込みもない、そして、これが最後の判決になるだろう、と著者は言う。