フェリシアン・ロップス




間違えて借りてしまった本を眺めていたら、面白い版画があったので記事にする。

しばらく前に記事にしたジャン・グランヴィルの版画集を借りたつもりが、大学の図書館のカタログに間違いがあって、別の画家の作品集だった。その別の画家というのが、フェリシアン・ロップスというベルギー出身の画家・版画家で、ボードレールユイスマンスの作品の挿絵を手掛けるなど、デカダンスとシンボリズムの芸術運動の中で有名な画家だった。19世紀の性や狂気の文化史の本を開けば、必ず挿絵や表紙イラストに使われる画家である。特徴があるタッチで描かれた、死と倒錯とセックスを融合した暗く暴力的なポルノグラフィは、見る人の心に暗い不安感―嫌悪感とすら言っていい―を与える傑作で、一度見れば忘れない。そのロップスの画集だったので、よろこんで眺めてみた。文献は、Rops, Felicien, L’oeuvre graphique complete Felicien Rops (Paris: Arthur Hubschmid, 1977).

社会の新しい現象を取り上げて風刺した作品で、「聴診」があって、直接聴診が描かれているのは、まあ、誰でも考えそうなエッチな小話で、これはいい。サタニックな性的想像力が全開で、私が知っていたロップスで、デカダンスのポルノグラフィを象徴するのが、「実験医学」と題された作品で、動物実験をする科学者が、吊り下げられた豚を獣姦しているという主題である。これはもちろん、クロード・ベルナールの「実験医学」のパロディである。私はこの作品を知らなかったし、ちょっとしたヒントになるだろうし、何よりも、いま書いている医学史の教科書のイラストに使えるだろうから、憶えておくためにここに書いておきます。

画像は、ロップスの「聴診」「実験医学」、そして有名な「ポルノクラテス」