インフルエンザとマスク

必要があって、内務省衛生局の報告書である『流行性感冒』を読む。文献は、内務省衛生局編『流行性感冒 「スペイン風邪」大流行の記録』(東京:平凡社、2008). 1918年から21年までに39万人の死者を出したとされるいわゆる「スペイン風邪」についての報告書で、もともとコピーで持っていたけれども、平凡社東洋文庫に入ったのを知って、よろこんで買って、改めて読んだ。

今回の新型インフルエンザの報道で、「スペイン風邪は世界最初のインフルエンザのパンデミーで・・・」という記述をよく見かけたが、これはおそらく間違いで、遅くとも18世紀には、ヨーロッパと日本で同時に流行が起きているインフルエンザが頻発している。1729-30年、1732-33年の流行がそうである。1889-90年の大流行は、89年の夏にシベリアに発し、秋にはヨーロッパに及んだ。90年の2-3月に日本で流行が始まっている。スペイン風邪がパンデミーのように見えるのは、それ以前の、世界の広範な地域に流行が確認されているインフルエンザの全貌を我々がつかんでいないだけである。

インフルエンザの流行に対して、大正政府は、コレラの流行を最初に経験した明治政府とは大きく違った対応をした。対策は、四つの柱があって、マスク、ワクチン、人が集まる場所(活動とか、寄席など)を制限すること、そして医師の診療をいきわたらせること、これは、医師がいない地域に医師を派遣することと、医師にかかることができない貧困者に受療させるということがある。一番派手な仕方でキャンペーンされたのがマスク(「呼吸保護器」)の着用の徹底指導と供給であった。東京ではマスクの供給が追いつかなくて、不正の商人が値を吊り上げて暴利をむさぼっていたそうであるが、各地で女学校の生徒がマスクを縫ったり、公的に生産・実費販売などをして、人々にマスクを行き渡らせた。 

そうか、手縫いのマスクですか。なんか、みんなで防疫にあたっている感じがして、いいですね。