ラテン語

気晴らしにラテン語の本を読む。文献は、Harry Mount, Amo, Amas, Amat… and All That: How to Become a Latin Lover (London: Short Books, 2006) 今日は無駄話です。

いえ、もちろん、気晴らしにラテン語で書かれた本を読んだわけじゃありませんよ(笑)。ラテン語は学生の時に何年か勉強しましたけれども、結局、ものにできないままでした。でも、いまだにラテン語ができるようになるといいなあという憧れは持っていて、ラテン文法の教科書(Wheelock )を本棚に置いてあります。もちろん、本棚に置いてあるだけではできるようにならないのは分かっているですが(笑)

この本は、Lynn Trusse の Eats, Shoots, and Leaves の二匹目のドジョウを狙った本である。トラスの本は、英語のパンクチュエーションについての、それはそれは楽しい本で、信じられないことに翻訳までされている。マウントの本は、かつてはイギリスの中等教育で多くの学生が勉強していたラテン語を素材にして、文法や語彙を説明しながら、おしゃれでウィットに富む軽い読み物に仕立ててある。この書物のことを知って、買って読んでみたのは、もちろん、もしかしたらこの本を読むと学生時代にものにできなかったラテン文法をマスターできるんじゃないかという下心があった(笑)もちろん、できるわけない(爆)

ラテン語はできるようにならないけれども、面白い話が満載だったからその一つを。ラテン語では呼びかけるときの名詞の格変化の「呼格」というのがあって、『不思議の国のアリス』で、アリスがねずみに「O mouse」と呼びかけているように、O+名詞の呼格にする。たとえば、神に呼びかける、市民に呼び掛ける、擬人化された「時」に呼びかける、バラに呼びかけるというような状況は簡単に想像できるから、問題ない。 私の文法の授業のときにも、最初に出てきた名詞の格変化の練習は、「門」(porta)で、門に呼びかけるという状況は、まれだとは思うけれども、まあ、解らないでもない。しかし、のちにイギリスの首相になったチャーチルがラテン語の初等文法を習ったときに、先生に「テーブル」(mensa) の呼格を聞かれたときに、チャーチルは、いったいどんな時に人はテーブルに呼びかけるのか、と先生にしつこく食い下がったそうだ。 チャーチルはラテン語はたいしてできなかったけれども、英語の名文家になったから、コトバができる人というのは、こういうセンスを持っているのかな。  

実は、この書物には、著者のマウントが通っていたロンドンの学校の同級生であった日本人の生徒が登場している。無口で友人とは話さず、口を開くときにはラテン語でもギリシア語でも歴史でも化学でも、授業でも先生が求めている答えを必ず言うというタイプの子供で、先生にはかわいがられるけれども級友には徹底的に嫌われる秀才君である。この書物では名前は Hiroshi Keiko となっているけれども、きっとこの名前には細工してあって、苗字の Keiko は、Koike を並び替えたのじゃないかなと想像している。身に覚えがあるコイケ・ヒロシ君、立って「私は/あなたは/彼は嫌われていた」を人称変化させなさい(笑)