裸形の狂人

必要があって、「裸形の狂人」像についての論文を読み直す。文献は、Andrews, Jonathan, “The (Un)dress of the Mad Poor in England, c.1650-1850”, Part I & II, History of Psychiatry, 18(2007), 5-24, 131-156.

狂人を表象するときに裸体に描く伝統が西洋には根強い。裸体は人間からの転落と動物性を意味しており、狂人は裸体でも寒さを感じないのだとまじめな顔をして書く医者すらいた。このステレオタイプが、現実に狂人に与えられていたケアの質を下げていたことは疑えない。しかし、文学や絵画の表象ではなく、貧しい狂人が処遇された現実の記録を見ると、むしろ、衣服を与えようと努力している有様がうかがえる。裸形の狂人という文化的な「意味生産の場」は重要だけれども、これまで社会史の研究者は裸形性にひきずられてきた。