アメリカの精神病院改革

必要があって、1950年代に行われたアメリカの精神医療改革調査の報告書を読む。文献は、Greenblatt, Milton, Richard H. York and Esther Lucile Brown, From Custodial to Therapeutic Patient Care in Mental Hospitals (New York: Russell Sage Foundation, 1955)

アメリカの精神医療は第二次世界大戦での人員減少で圧迫されたが、そこにはオプティミズムがあった。オプティミスティックな精神医学者を見ると冷笑したくなる皮肉屋がいるかもしれないけれども、この時期には日本の精神医療ですら未来に明るい展望を持っていたくらいだから、アメリカの精神医学が楽観的になって悪い理由はひとつもない。経済は発展して生活水準は向上していたし、GPIの形で大きな被害を出していた梅毒は抗生物質で征服させられていた。精神医学の治療法の中でも、ロボトミー、電気ショック、精神分析といった、エキサイティングで明るい未来を約束する治療法がきら星のようにあった。作業療法などは新しいモデルの精神医学を示唆していた。そのようなオプティミズムの中で行われた調査の報告書だから、どちらかというと前向きな姿勢である。

マサチューセッツ州の州立精神病院である Metropolitan は郊外の野原・丘陵地にある典型的な田園型の立地をもつ公立精神病院である。州立病院の中では上位に位置するもので、当時、他の州立病院から優良な患者を選び出して収容したという経緯がある。他の精神病院の院長たちは、病棟に安定を与え、作業療法を通じて病院を経済的に助けてくれる優良患者が自分たちの病院から奪われることに抗議したという。戦時の人員不足とある種の哲学のため、病棟では患者のレッセフェールに任されていた。その結果、患者の活動は最低限の水準に落ち着くことになった。患者の多くは病棟の一画や個室に自閉し、他の患者と会話を交わすこともなく、スタッフから刺激を受けることもない。孤立し人格性がないアパシーの状態が、自らに任された患者たちが選んだ道であった。

ちょっと意外な数字だから憶えておくために書く。この精神病院で、作業に参加していたのは患者の20%くらいだったという。作業療法は大々的に書かれるから、もっと多いのかと思っていた。ただ、これは、患者の老齢化と関係があって、作業可能な年齢の患者でいうと半分くらいだという。精神病院の作業療法にも定年があったんだ(笑)