ウェルビーイングと芸術

必要があって、ウェルビーイング (well-being)についての論文集から、芸術と健康・ウェルビーイングについての論考を読む。文献は、Haley, David and Peter Senior, “Art, Health and Well-Being”, in John Haworth and Graham Hart, Well-being: Individual, Community and Social Perspectives (Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007)、110-126.

かつての健康対策は、「害になるものを取り除く」ことに集中していた。医学の仕事、厚生省の仕事としては、「健康に害になるもの・病気の原因になるものを取り除く」ことに尽きていたといってもよい。ネガティヴアプローチといってもいい。そういったモデルにかわって、ポジティヴアプローチとしてウェルビーイング(「健康幸福感」とでも訳すといいのかな)を促進することが新しい目標になっている。主観的な健康感・幸福感の構造についてのリサーチをして、複雑な構造をもつ健康観・幸福感を医学類似領域の問題として考えようという試み。その中で「健康のための芸術」ということがプロモートされている。その結果、それと意図しなくても、イギリスの厚生省は、芸術のパトロンになっているという。

医学的な治療と精神的な幸福感を組み合わせることには長い伝統がある。ギリシアの古代にはいやしは神殿で眠る安心感で行われ、フィチーノは音楽の医療効果を称揚した。シデナムは、町に楽しい出し物をする道化師がくるのと、ロバ20頭がひいた薬を満載した荷車がくるのとでは、前者のほうがずっと町の住民を健康にするといっている。