必要があって、「生活臨床」についての回顧的な論文を読む。文献は、台弘「『生活臨床』の展開とその今日的意義」昼田源四郎編『日本の近代精神医療史』『精神医学レビュー』No.38(2001), 71-79.
昭和30年代はじめに小林八郎がとなえた「生活療法」をヒントに、群馬大学の江熊要一などが中心になって分裂病の再発防止・予後改善のために、総合的な精神医療のプログラムが作られ、それが「生活臨床」と名づけられた。これは、入院だけでなく、外来と地域の三つの輪をもつトータルなプログラムで、方法としては生活・精神・薬物の三つの方法をもっている。生活の機能に基礎を置き、生活の仕方のパターンを自覚する精神療法的な側面を持ち、薬物療法の導入に基礎を持つ。ちなみに、能動的なタイプと受動的なタイプというのをわけて、それぞれが分裂病の予後に関係があるという観察は、戦前でも観察されていたけれども理論化されていなかったものだろうと想像している。
著者が、自分たちが作った方法の今日的な意義を強調する態度や、自分たちの概念と他の有名な概念、たとえばbio-psycho-socialの概念や森田療法やアードラーなどとの共通性を論じる態度は、事後的に正当性を論じているような口吻で、少し気にさわる人もいるかもしれない。そんな人は、生活臨床の中で精神外科はどこに入るのですかという陰湿な質問をするのかな。(すみません、これ自体が陰湿なコメントですね。)