ジョージIII世の精神病

新着雑誌から。ジョージIII世の精神病の再診断の論文に目を通す。文献は、Peters, Timothy J. and D. Wilkinson, “King George III and Porphyria: a Clinical Re-examination of the Historical Evidence”, History of Psychiatry, 21(2010), 3-19; Peters, Timothy J., and Allan Beveridge, “The Madness of King George III: a Psychiatric Re-assessment”, History of Psychiatry, 21(2010), 20-37.

イギリス国王ジョージIII世は在位中に何回かはっきりとした精神障害の症状を示した。これについて、イギリス精神医学史研究の開祖ともいえるHunter & Macalpine が詳細な研究を書き、アラン・ベネットが芝居にして映画化されて大変有名になった。ハンターらの本でも、ベネットの芝居でも映画でも、ポルフィリン症という肝臓障害による精神障害であるという説が唱えられ、正統的な見解になっていた。この論文は、新たな証拠を組織的・徹底的に吟味して、ハンターらの証拠の脆弱さと恣意的な選択をあばき、ポルフィリン症の診断は誤っていて、実はマニアであったと結論している。

精神病の診断の話だから私にはその当否はわからないけれども、おそらくこの見解が受け入れられると思う。特に、ハンターたちが決め手であると考えていた尿の色についての同時代の記述が、意外に弱いものであったという点が、大きなポイントになるだろう。

この論文が引いている同時代の記述から二つ引用する。もちろん私には診断できないけれども、なるほど、これはマニアっぽいという印象を持つ。

1788年11月22日。昨日の午後、王の病気は新たな方向に発展した。言葉においても行動においても獣のような下品さの極みに達した。身体の症状は、私が言葉にできないようなものであった。大きな辞書を引いて、「プリアピズム」[持続勃起のこと]の項目を見るといい。

11月27日。王の狂気の最初の症状は、裸で女王の部屋に入っていき、彼女をベッドに押し倒とうとして、周りの侍女たちに、彼がうまくできるかどうかそばで見ていろと言ったことであった。