Prospect より - 恋愛短編小説

出張の飛行機の中で、Prospect を読む。イギリスの中道左派系の高級総合誌で、人に説明するときには、政治的には左派のNew Statesman と 保守のSpectator の中間くらいと説明することにしている。

昔は英語の新刊小説を読んだりしたけれども、最近は一年に一冊も読まなくなったかもしれない。英語のフィクションとの唯一の接点が、Prospect の短編小説コーナーである。毎月違う作家で、今月号は、Simon van Booy という、私がはじめて名前を見る作家の、The Secret Lives of People in Love というタイトルの新刊からとられた “Save as Many as You Ruin” という短編。作者インタヴューによると、着想を得てから四時間であっという間に書き上げた作品だそうだけど、読む側からしても、読み始めたら一気に引き込まれるように読みすすめた。

午後にちらつきはじめた雪が本格的になった夕方のマンハッタンが舞台である。

主人公のジェラード(G)は8歳の娘のルーシーと二人暮らし。母親のイシーは二人を置いてLAに出奔して女優の仕事をしていたが4年前に死んだ。イシーは太ももに香水をはたいてハイヒールを履いたままでセックスする女で、Gはそれを素晴らしいと思っていたが、本当に愛しているのは同時に付き合っていたローレル(L)だった。しかし、イシーは妊娠し、GはLにイシーと結婚することを告げて、Lは了解して去って行った。

雪の夕方にデリカテッセンの列で待っているLの姿をGは見かけて声をかける。Gはイシーの身の上をつげる。Lは結婚して離婚していた。GはLのアパートに行き、二回セックスした。最初はキッチンで、次はベッドで。

遅く帰ってきたGを、娘は寝ないで待っていた。誰を待っていたのか、その人は家に来るのか、その人と結婚するのかと娘は聞いた。そうかもしれない、Gは答えた。

・・・こう、私がまとめると、なんでもない話になってしまうんだけど。デリの列にいたLにGが気づく―8年ぶりの再会となるところが、シンプルだけど美しい言葉で語られていた。

In that moment of recognition, he is not consumed by a rushing sensation of love – quite simply a door opens to a room that has never gone away.