『イギリス文化入門』

いただいたイギリス文化学の教科書に目を通す。文献は、下楠昌哉責任編集『イギリス文化入門』(東京:三修社、2010)

近年では、多くの大学の英文科の学生は「英文学」を学ぶというよりも、ビートルズやミニスカートやベッカムについて学んでいる方が多いと聞く。『イギリス文化入門』の教科書である本書も、歴史・文学を一章で扱うという超荒業でまとめ、それ以外には、音楽に一章、映画に一章、美術に一章、スポーツに一章と、新しい動向を積極的に取り入れた多様な構成になっている。こういう構成には賛否両論があるだろうけれども、キャノニカルな文学が「分かる」ようになるためにはかなりの英語の力が必要だし、それだけの力を学部と英文科の四年間ですべての学生につけさせるのははっきり言って難しいのだろう。音楽や映画が分かるのは簡単だとは言わないけれども、「イギリス文化」を教えるということならばこれが正解なんだろうな。

でも、この教科書を使って、「私が」どうやって授業をするのか、ちょっと想像できない。たとえば「イギリスの音楽」の回なら、①ピンク・フロイド、②キング・クリムゾン、③ジェスロ・タル、④セックス・ピストルズ、⑤クラッシュなどの違いを教えなければならなくて、授業の前の週は、毎晩徹夜で賑やかな音楽をCDで聴いて予習をしているにちがいない。ちなみに、①~③は「プログレッシヴ・ロック」、④~⑤は「パンク」で、前者は「芸術的内省性を強めていった」音楽で、後者は「ロック本来の過激さや猥雑さを取り戻そう」とした動きであるとのこと。しかし、小川先生、プログレの「芸術的内省性」とパンクの「ロック本来の過激さ」の違いなんて、本当に学生に教えているんですか?(笑)