呉秀三

精神病院の患者が長期在院してしまうことについて。 作業療法が、それを短くする可能性について。 呉秀三がとても面白いことを言っている。

「また、巣鴨病院なり、その他の病院におきまして、精神病者を病院に入れると、重荷でも下ろしたような感をもっておる人がある。もっともひどいのは、患者を病院に入れておいて、家族はそれなりに行方が分からぬというのがあります。これはどうも、日本の文明が進まないものとは、皮相の見かも知りませんが、そう思わなければなりませぬが、西洋などでは、施療病院でも、その門前が日曜などには市のようになって、病人の家族は固よりのこと、近所近辺のものまで、色々の人が患者の見舞いに行きます。ところが日本などでは、施療患者の家の人を呼んでも、なかなか出てこない。その家族の者が患者を病院に託したのか、棄てたのか分からぬようなのが多いのでございます。ところが、前申したように、病院において患者に業務を授けるようになってからは、今までは患者がなおったから引き取りに来いといっても、取りに来なかったのが、患者がよくなってきて、業務をなし、機を織ったり、編み物をしたり、縫物や洗濯をしておるのを観ると、医者がまだ本当に治っておるのでないっといっても、すぐ引っ張って行ったりする。病院経費の負担を幾分減らす(すなわち、病人の代謝が多くなる)気味がある。今申すとおり、患者に業務を授けることは、病気を治すというばかりでなく、経済上からいっても、利益があることでございます。」

呉秀三「精神病学講演速記」(1908) 1907の東京医学会談話会でした講演筆記の印刷。この部分は、金子準二の『書誌』148P。