成果主義とメンタルヘルス

必要があって、成果主義とメンタルヘルスについての小さな本を読む。文献は、天笠崇『成果主義とメンタルヘルス』(東京:新日本出版社、2007)

成果主義を導入した会社の労働者のメンタルヘルスは悪化するいうことを主張する書物。私は基本、その考えに共鳴するけれども、この本は、何のデータもなく、自分の症例だけが根拠になっている、精神科医が一般向けの本でときどき書いてしまうタイプの書物。

しかし、どうして、医者の中でも特に精神科の先生は、パルティザンな書き方をする人が多いのだろうか。なぜ自分の議論に都合がいいことだけを書くのだろう。ある議論が正しい部分を的確に限定することは、むしろその議論の価値を増すということが、なぜ分からないのだろう。可能性は二つあって、一つは、一般向けの書物では、どうせ馬鹿で無知な大衆を相手にしているのだからとにかく一面的なことをいいまくれば「勝ち」だと、一般読者を蔑視している態度を持っているということ。もう一つは、かつての、イデオロギーと剥き出しの力の対決で精神医療の趨勢を決めようとした態度がまだ生きていること。そのせいで、日本の精神科の医者が書く一般向けの本は、英語圏のそれに較べて、圧倒的に水準が低いと思う。

これは、きっと、自分では意識しないうちに、業界に存在して専門家の言葉使いを決めてしまっていることだろう。きっと、医学史にも、科学史にも、歴史学にも、こういうボキャブラリーがたくさんあるんだろうな。