必要があって、満州のペストについての研究を読む。文献は、Gamsa, Mark, “The Epidemic of Pneumonic Plague in Manchuria”, Past and Present, no.190(2006), 147-184.
満州のペストについての論文というより、それを素材にして、社会史の反省のうえにたって、植民地における疫病の被害と科学の導入をどのように理解すればいいのかという、ヒストリオグラフィのシンクピースという色合いを持つ論考である。これまでの人種や階級などの権力関係を通じて分析する方法の妥当性を認めながら、それら「シニカル」であるとまとめて、歴史の中の個人の道徳的な選択に注目する humanist history の可能性をさぐっている。著者はイスラエルの大学の研究者で、ホロコースト研究の中で鍛えられた方法論と問題意識を、植民地における疫病と対策に適用しようという試みであろう。ブログのスペースで紹介するには議論が大きすぎるので、これは、別の機会に、正面から取り上げようと思います。疫病と差別の問題、そこにおける被害者とは別の集団に属する科学者の倫理の問題に興味がある研究者にとっては、必読文献です。