イギリス人の性行動

必要があって、20世紀末のイギリス人の性的行動についての調査を読む。文献は、Wellings, Kaye, Julia Field, Anne M. Johnson and Jane Wadsworth, Sexual Behaviour in Britain: The National Survey of Sexual Attitudes and Lifestyles (London: Penguin Group, 1994). この研究は、人間の性行動についてこれまで行われた研究の中で、最も大規模(対象は2万人)で、能う限り厳密なものだそうで、この研究に資金を出したウェルカム財団では話題になっていた。その後、この研究に影響を受けて、日本の厚生省も大規模な日本人の性行動調査をしようとしているという話を聞いたけれども、それは行われたのかしら。それとも立ち消えになったのかしら。あるいは、話題になったのに私が知らないだけなのかしら。

データを一つ。この研究が行われた直接の背景はもちろんHIVの流行であった。アメリカでの流行の時には、アメリカのゲイにおける「乱交」と言っていい状態が明らかになった。これが「ゲイは乱交する」というイメージにつながり、他者性の偏見の増幅につながるとか、いや事実であるとか、いろいろと議論された。これはアメリカのデータではなくイギリスのデータだけれども、ゲイの性行動についての的確な姿がわかる。まず乱交についてだけれども、確かに、乱交をするのは、ゲイの方がヘテロよりも多い。乱交を、過去5年間に100人以上のパートナーを持ったことと定義すると、ゲイ男性(この定義はちょっと不正確だけれども便宜的にこういう)は290人中3人(1%)、ヘテロ男性は7484人中1人(0.01%) になる。ちょっと「乱交」を甘く定義して5年間で20人以上のパートナーとすると、ゲイ男性は4.2%, ヘテロ男性は1.7%になる。(レズビアンの女性はこのあたりの数値は限りなく0%に近い。)たしかに、異様に多くの人間と性交することをライフスタイルとしている人物の割合は、ゲイの方が高かった。しかし、その一方で、これらの乱交する人物は、ゲイの中ではごく限られた少数派である。ゲイでいうと91%、ヘテロでいうと95%が、5年間に9人以下という、普通の性交のパターンの中におさまっている。これで、エイズの爆発的な流行も、ゲイの多くが(当たり前のことだけれども)普通の常識人に見えるということも、どちらも説明できる。