新着雑誌から、ピネルを中心に、精神医学における消化器の役割を論じた論文を読む。文献は、Williams, Elizabeth A., “Stomach and Psyche: Eating, Digestion, and Mental Illness in the Medicine of Philippe Pinel”, Bulletin of the History of Medicine, 84(2010), 258-386.
精神病と消化器については、もっともらしいヒストリオグラフィが存在する。前近代のホリスティックな医学においては、食餌や消化や問題が精神の病気と密接に関係があると考えられていたが、精神医学が独立した分野になるとともに、脳と神経が身体から切り離されて、その器質と機能の不調が精神を病にするととらえられるようになり、精神病と消化器の関係が希薄になったという説明である。この論文は、精神医学を独立した学問にしたピネルその人について、消化器の機能と食欲の乱れが、精神病論の中心の一つであったことを論じている。そこには18世紀の情念論の影響があったこと、「消化不良」などの病気は、精神病のスティグマを恐れて保養所や温泉地などでひそかに精神病の治療を受けていた患者にとって都合のよい病名であったこと、精神病院における食事の問題はとても重要でありピネルは「強制食餌」について論じていること、などが論じられている。とても優れた論文だった。